アメリカ政府機関のMCS報告書とパブリックコメント


20001218

CSN #166

近年、微量な化学物質によってアレルギー様の反応が生じ、様々な健康影響がもたらされる病態は、多種化学物質過敏症(Multiple chemical sensitivity: MCS)と呼ばれています。多種化学物質過敏症(MCS)は、近代工業化社会が産み出した環境病と言われています。また一方では、心因性のものであり、疾病とは認められないとも言われています。

アメリカはMCSに関する歴史が古く、テキサス州ダラスにある環境衛生センター(EHC)[1]のリア博士は、これまで数千人ものMCS患者を診察してきたと言われています。しかしながら、まだMCSは疾患として十分認知されていないのが現状です[2]

そのような中、アメリカ厚生省の研究機関で組織された環境衛生政策委員会(EHPC),19988月にMCS報告書を発表しました[3]。この委員会に参加している研究機関は、毒物疾病登録庁(ATSDR)、疾病管理予防センター(CDC)、食品医薬品局(FDA)、インディアン健康サービス(HIS)、国立衛生研究所(NIH)です。

この報告書によると、MCSの一般的な症状は表1のように示されています。

表1 MCSの一般的な症状[3]をもとに作成)

呼吸困難

頭痛

胸痛

集中できない

関節及び筋肉痛

眼、耳、鼻、喉の刺激

倦怠感

疲労感

記憶喪失、記憶混乱、めまい

胃腸の問題

皮膚の異常

この報告書の内容は、MCSに関する単一の定義は定められてない。MCSの診断や原因を定義するために必要な有用な疫学データが存在しない。多くのMCSに関する研究報告にはいくつかの制限がある[3]。つまり、これまでのMCSに関する疫学調査結果には、さまざまなバイアスが含まれており、さらに追加調査を行う必要があるといったものでした。

それに対する460のパブリックコメントが、医療専門家、個人、MCS患者、MCS関連団体から寄せられており、アメリカ疾病管理予防センター(CDC)国立環境衛生センターから2000929日に報告されました[4]

膨大な460のパブリックコメント全てを紹介することはできませんが、上述の国立環境衛生センターの報告書では、次のように要約されています[4]

MCS報告書には、MCSの治療を行っている医師の調査結果はもちろんのこと、他の政府機関の情報が含まれてない。参考文献は不十分で、さらに文献を調査し、報告書に含むべきである。MCS報告書は無効とするよう推奨する。医療専門家、政府機関、雇用者、一般の人々のためのツールとして使用すべきで、あらゆる偏見を取り除くべきである。」

1999年にアメリカの環境衛生雑誌「Archives of Environmental Health」でアメリカ政府、医学アカデミーによるMCS同意事項が発表されました[2][5]。ここではMCSの臨床定義と規約に関する6つの合意基準を提示し、それらの基準が満たされる時はMCSと診断するよう推奨しています。しかし今後さらに研究することによって、慢性疲労症候群(CFC)、線維筋痛症候群(FM)などの症状との関係を、さらに明確にする必要性があると述べています。

このように、アメリカでもMCSに関する研究が十分進んでおらず、いくつかの合意事項が示されても、なお他の症候群との区別ができていない状況であると言えます。しかしMCSを訴え苦しむ人々は増えています。MCSを事前に予防すること、MCSを訴える人々を救うことを第一に考え、行動を起こすことが求められています。

Author: Kenichi Azuma

<参考文献>

[1] Environmental Health Center – Dallas (EHCD)
http://www.ehcd.com/index.html

[2] Kenichi Azuma, 米国政府・医学アカデミーによるMCS同意事項, CSN #124, February 28, 2000
http://www.kcn.ne.jp/~azuma/news/Feb2000/000228.htm

[3] The Environmental Health Policy Committee (EHPC), The Interagency Workgroup on Multiple Chemical Sensitivity, “A report on Multiple Chemical Sensitivity (MCS)”, August 24, 1998
http://web.health.gov/environment/mcs/toc.htm

[4] National Center for Environmental Health, Centers for Disease Control and Prevention (CDC), Summary of Public Comments Received for the Multiple Chemical Sensitivity Report, September 29, 2000
http://web.health.gov/environment/mcs/index.htm

[5] Multiple chimical sensitivity:a 1999 consensus, Archives of Environmental Health (AEH), Vol.54(3), pp147-149,1999 May-Jun.
United State Government,California,New Mexico[Epidemiology]
http://www.heldref.org/html/body_aeh.html


「住まいの科学情報センター」のメインサイトへ